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涙の落ちる先に

「今時のデパートちゅうもんは、なんていうかあれだねえ。」

店の前に現れてから幾分かは過ぎ去ったというのに、老人の乱れた息が整うけはいはなかった。わたしは只々、その者の、やせ衰えた、独特の匂いのする息を間近に感じながら、老人の生成り色のシャツのしわを凝視していた。かれは、わたしと己との間に生ずる沈黙というものをまったく怖れぬようすで、ゆっくりと、喋る。その間というか、空間に、わたしは自分の記憶が、すっかり忘れていた亡父の面影が現われては消えてゆくのを見た。秋の庭先に、がりがりの足を組み、あばらの浮いた胴を椅子へと沈めた、それでいてそのまなこだけはみょうにギラギラと恐ろしく輝いている父が座っていた。手入れするもののいなくなった前庭では猛々しく秋桜の花とさざんかが乱れ咲き、父はその色合いに押されて消えてしまいそうな風情で存在していた。そうだ。確かに存在していた。

わたしの涙が秋桜のうえにぽたりとおちる。

「うるさくて、かなわんねえ……おや、どうした、おねえちゃん……?」



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