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ばびゅーん


焔の続きです。
っていうか、昨日ひさびさに帰ってきた兄貴が「聖☆おにいさん」を持ってきてくれて前から読みたかったから飛びついたら、やっぱすごい お も し ろ い。

一コマ目から憤死しそうになったのは私だけではないであろう。
宗教小ネタ満載過ぎて死にそう。風呂が葡萄酒に! 身を差し出すネコに七面鳥にすっぽん!
三日柵超えにはお腹が痛くなりました。

教習所の勉強ハイライト!
あとは試験受けるだけ! 卒業するだけー!!




しばらくの間があった。
呆れたような、どうしていいのかわからないような。
しかしやがて緋乃が、恐ろしくふかいため息とともにその沈黙をやぶった。

「……バカ正影」
「は!? お前、一体どこまで──」

妹の一言にすかさず身を乗り出した兄だったが、しかしながら、

「うるさい!!」

という緋乃の怒りに直面し、すぐさま口を閉じていた。
なに?
緋乃の白い手が、かたく拳に握り締められてふるえていた。
彼女は目を伏せて、感情を押し殺すように、とぎれとぎれに言葉を吐きだした。

「黙って見てれば──調子に乗って──恥も外聞もなしに! 正影、いい加減にしなさいよ、帰れって言ったでしょう。これ以上瀬川に迷惑かけたら、あたし本気であなたのこと刺すわよ!」
「刺!?」

度肝を抜かれた兄に、ちょっと眼を見開いた界、それからその様子をあいかわらず涼しーい顔で見物している界の姉、セイ。
緋乃はそれらの人々の中心に居た。
顔が紅い。真の怒りを熱として発散しているのだ。足をふみならし、正影に詰め寄る。

「ええ、刺し殺してやるわ、ナイフで! 本気よ、あたしは嘘はけっして付かないわ、それくらい大事な人なの、いまあたしの傍に居てくれている人は、みんなあたしの掛け替えのない人たちなのよ。だから奪わないで。傷をつけないで。やるならあたしをやりなさいよ」
「な、なにもそこまで言わなくてもいいじゃん……」
「言いたくもなるわよ! だってあたしと貴方がたの間の問題は、誰のせいでもないのに、あなたはそれを瀬川のせいにしようとした。いつものように、決して自分を見つめようとはしない。それが悲しいのよ。腹が立つのよ!」

だんだんヒートアップしてきた緋乃を、彼女の体調を心配する界が止めようとした。

「恩納」

と、穏やかな声と共に緋乃の肩に手を置き、そのはずんだ息を整えさせる。
緋乃は悔しそうな、悲しそうな表情で界を振り向いた。
唇が紅い。眼がうるんでいる。頬も紅く、あきらかに体調が悪そうなのに、それでもその精神は彼女に、

「止めないで、瀬川!」

と言わしめる。界は肩をすくめて即答した。

「止めてない。中断させた」
「同じよ! quitでしょ!」
「違う、stopだ。……俺をかばってくれるのは嬉しいけどさ、恩納。ひとつだけ確認させて。彼、誰?」
「兄よ! 私の知る限り最も愚かな人間!」
「丁寧な回答をありがとう。納得した。だったら、失礼なようだけど、きょうだい喧嘩は別の所でした方がいいぜ」
「たとえばどこよ!」
「ご自宅とかさ」
「帰りたくないの!」
「そう、だったら、今どうすべきかは自明だろう。」
「……」

このやりとりの間、正影はじりじりと妹から後退していた。本気で怒った彼女はかなり怖いのだ。頭がいい上、気性が激しいので、先ほどのように豪胆な発言はいつものことで、そして彼女自身そう言っていたように、時折その発言は実行に移される。

今までやられたのは、ビンタに、3日間飯抜きの刑、それからクリア直前だったRPGゲームの記録を消されたことに、それからそれから……?

正影はいまさら恐怖にかられていた。思いだした。
今まで、自分が極限まで愚かな行動をして妹を怒らせたときにはそのような極刑が待っていたのであった。

そして今回は、彼女の鬼のような表情から見ても、相当まずいことを言ってしまったようだ。まずい。

逃げねば!

「だってこの人、あたしが沙絵の家に言ってからぜんぜん連絡してこなかったのよ!? 一か月まるまる! なのに今更学校に押し掛けてきて帰ってこいだなんて言うの、自分勝手よ!」
「わかるけど。心配されてるってことだろ、それだけ」
「されてない、わかるの! いつもあたしのこと、厄介だって思っているの知ってるわ。母と一緒に。だから離れたのに、なのに、いなくなったらありがちな家族愛みせつけるみたいにして、こんな展開……いや! あたし、こういう薄情なの大っきらいなの!」
「知ってるよ。あーもー、とにかく落ち着けってば。俺に大人しくしろなんて言える立場じゃないだろ。顔まっかだぞ」

界は緋乃の上気したほほに手をやって、その高い体温に呆れたようだった。短く息を吐き出して、すっかり冷静さを取り戻した様子で彼女を見つめている。その視線を見れば、すくなくとも彼が緋乃に抱く好意だけはほんものであるらしいということは正影にもわかった。
腹は立つが、納得しようと試みる。
頭良さげな喋り方だし格好いいし硬派っぽいし、まあ、緋乃にはこの男はお似合いかもしれない。

「帰られるの?」
「へ」

帰ろう、と正影は、いまだ話し続ける妹とその彼氏(候補)に背を向けた。その途端、目の前に急に現れたかのように、すらりとした女性が立っていて死ぬほどびっくりした。

いつのまにこの人は自分の背後にいたのだろう。
全く気配がしなかった。

「まあ、それが懸命に見えますね。うちの弟はあなたの妹さんを離す気がないみたいだし、あなたの妹さんも相当すてきな性格をしてらっしゃるみたいだし。」
「あ、あんた、誰」

正影はしどろもどろに呟いた。
そのおねえさんは、自分と同い年くらいには見えたが、それでも何故かとても神々しく見えた。全体的にまとう空気が透き通っていて清廉だ。簡単に侵すことができない領域を持っている。

彼女は──セイは、うっすらと唇のはしを持ち上げて笑った。

「彼の姉です。あなたの妹さんの彼氏の、って言ったほうがわかりやすいかな。」
「彼氏じゃないってひいは言ってました!」

むっとして正影は答えたが、それは無論、さきほどまでの自分の主張と矛盾していた。そしてセイはそれをわかっていた。
優雅に小首を傾げて、さらさらとした髪が肩から落ちる。

「そう? だとしたら何故怒るんですか。うちの弟に妹さんを渡したくないなら、妹さんの話をもっとまともに聞いていいはずだわ」
「あいつ……ひいは、いつも、ワガママなんだ。冷たいんだ。俺達家族にちっとも優しくしてくれない。だから好きじゃないんだ」
「それも矛盾ね。好きじゃない妹さんをここまでして追いかける兄君はいないわ」
「ああもう、やめてくれ! 嫌なんだ、きょうだい愛とか、そういう嘘くさいのは。」

知らないお姉さんに冷静に自分の行動を客観視され、しかもそれについて意見まで述べられて、正影は急に恥ずかしさに襲われた。そうだ、自分は何をやっていたんだろう。妹を追いかけて、大声で叫んだり、あろうことかその彼氏と張り合ったりまでして。
家族とか、愛とかそんなもの、自分は信じるガラじゃないじゃないか。

「帰ります」

正影は小さい声で言った。誰に対してでもない。
とにかくもう帰りたかった。会社に帰らねば、そろそろ上司からおしかりの電話がかかってくるに違いない。
だが本当は、緋乃の言うとおりだった。逃げているのだ、自分は。いつも、厄介なこと全てから逃げて、迂回する道ばかりを選んでいる。

だから強くなれない。
だから強い緋乃と、理解し合えない。

「正影!」

セイの脇をすりぬけようとした時、緋乃がこちらの逃走に気付いた。
怒りに満ちた声が飛んできたが、正影は振り返る勇気がなかった。
背中に全神経があつまったかのような錯覚にとらわれながら、ただ歩く速度をはやめた。前へ。ひたすら前へ。

「まさかげ、あなた、何しに来たのよ!」
「おーんーな。いい加減静かにしなさい。手ぇ超冷たいぞ」
「正影、逃げるな! 今だけの意味じゃないわ、あたしから、お父さんのことから、逃げてばっかりいないで! 向き合ってよ、たまには! そうできないなら、二度と来ないで!」
「ほんと、素敵な妹さんですね?」

路地いっぱいに響き渡る声で叫び続ける緋乃に、セイがくすくす、と感嘆の意味の笑顔を見せた。しかし正影はもうそこにいなかった。
彼は行ってしまった。去った。

しかしながら──愛する妹のことばは、しっかり彼の耳に届いていた。



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