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want you to see an angel



彼と離れるくらいなら、あたしは死んだ方がいい。



怖い夢を見た。

暗くて、深くて、息のできなくなる夢。
まっくらな闇の中、あたしは海に立っていて、膝までをそのぬるぬる輝く液体のなかにひたしていた。
ざわざわと風が吹いていて、乱れた髪に視界はよく見えなかった。

ただ、あたしは自分が何かをひどく恐れていて、逃げ出したいことがわかっていた。
逃げ出したいのに一歩も動けないことも。

心臓が痛いほど早く打っていて、全身ががたがた震えていた。
キチキチ、と、嫌な音がした。
その嫌な音は、生きていて、あたしの足元から無数に広がっていった。

ぞっとしながら、下を見た。
見てはいけないと、見ない方がいいと、わかっているのに。
視線をじりじりと、下にずらした。

するとそこには──




「──ひの?」

自分の悲鳴で眼が醒めた。
見開いた視界に映ったのは、心配そうに私を見つめる一対の瞳。
大きな手が伸びてきて、わたしの頬を撫でてくれる。

「どうした。すごい悲鳴だったよ」
「……あ」

ゆ、め?
今のは夢?

私は現実と夢の感覚がごちゃまぜになって、まだ震えてしまう。
界の手があたたかく、辛抱強く私の頬を、髪を、撫でて行く。
そのリズムに、次第に体の緊張が解けていった。

「大丈夫か?」

今一度、尋ねてきた彼に、答える代りに腕を伸ばした。
首に手をまわして抱きつくと、熱い体温が伝わってきて心底ほっとした。
彼の寝巻に涙がうつって初めて、私は自分が泣いていたことに気がつく。

「……嫌な夢を見たわ」
「怖い夢?」

ぎゅっと、抱きしめ返してくれながら、界は応じた。
わたしは彼に頭をなでられながら、わからない、と答える。
ベッドのシーツも、彼も、毛布も、全てがここちよく温かいのに。

心の芯だけが、恐ろしく冷え切っていた。

「海、みたいな場所にいるの。でも、真っ暗で、嫌なにおいがして。足元は蟲が泳いでいる」
「蟲?」
「そう。……ぞっとするような、無数の蟲よ。うごめいて、あたしを取り囲んで、笑ってるの」

正体のわからないその「蟲」に、出会うのはこれがはじめてのことではなかった。
子供のころから私は寝付きが良いほうではなく、大人になるにつれて、ほとんど不眠症と言えるほどになった。
そして、たまに眠れたとしても、そこでは必ず出会う恐怖がある。

界のそばにいるようになってから、悪夢と出会う確率は格段に減った。
けれど。
それでも、完全になくなったわけではない。

息のできなくなる、自分が虫に食いちぎられる、怖いこわい夢。

「カイ」
「ん?」

どうしてだろう、彼の腕の中では、何も怖くないのに。
世界で一番、安心できる場所なのに。
自分で自分にイライラする。

なぜ消えないの? 
この悲しみは?

どうして私はこんなに、何かが、怖いの──?

「……ごめんね。起しちゃって」

絡まっていた腕をほどき、少しだけ身を離してから、わたしは彼の眼をのぞきこんで言った。
でもほんとうは、私を起こしてくれたことが嬉しかった。
果てのないあの悪夢から、いつもわたしを引き揚げてくれるのは彼だって、知っている。
界はシーツに肘をついて、私を見つめた。
すこし笑っているその顔が、たまらなくやさしかった。

「起きてたから、平気だよ。」
「嘘ばっかり。……きのう、帰ってくるの、遅かったのに。」

思わず呟いてしまうと、手が伸びてきて、私の髪をすくった。
彼の胸元に擦り寄ると、今度は背中に置かれた手。あたたかい。

「本当。お前が悪い夢を見てると、なんとなくわかるんだ。」

低い、声が、耳元に響く。
界は多くを語らない。けれど、そのぶん、沈黙に重みがある。
わたしは眼を閉じて、彼の胸に額を押し付けた。













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