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ネタメモ


ひとりの少女が、王都の片隅で竪琴を奏でていた。
ほっそりと長い指先が細弦をはじき、紡ぎだされた音が驚くほど強く大気をふるわせ、そこに見えない渦を作った。
少女はやがて甘い声で歌い始めた。
道を行き交う人々が足を止め、胸を押さえた。
聴いたこともない異郷の旋律が、紛れもないこの国の言葉で歌われていた。


わたしは、花を手折った
わたしの愛するもののため
すると花は枯れた
わたしの愛するもののため
わたしは、花を植えた
永い時間がかかったが 花は咲いた
わたしの愛するもののため



歌が終わった時、どこからともなく拍手が起きた。
娘は顔をあげ、驚いたように目を瞬かせると、胸に手を当て頭を下げる、東風の礼をした。
彼女は物乞いのために歌ったわけではないらしく、ゆったりとしたズボンに革のサンダルを履いた足元には、皿の一つも、敷物すらひいてはいなかった。

「お嬢さん、どちらから来なさった」

ひとりの婆が声を上げ、娘の前に進み出ると、金貨をいちまい差し出した。
娘はすこし考えたように見えたが、すぐに立ち上がると、礼を言いながらその金貨を受け取った。

「ありがとう。私はヤハンナから来た」
「ヤハンナ。ずいぶん、遠いところから来たんだね。親御さんはどうしたい」
「私に親はいないんだ。ずいぶん前に戦で死んだ」
「ああ……」

戦、ということばに婆は顔色をすこし曇らせてうなづいた。
東の島国ヤハンナは、数年前に大規模な内乱を起こし、王政が覆された。
すなわち、王が弑されて、民が手に手を携えてあたらしく国を治めていく法をつくった。
今でこそようやく復興の道を歩き始めたが、内乱の傷跡は深く、ヤハンナから王都にやってくる難民も後を絶たない。

「その節は、大変だったろう。」

この娘もそういった難民の一人であろうと婆はふんで、もう一枚金貨を懐から取り出しかけたが、他でもない娘の手がそれを止めた。

「ありがとう、おばあさん。けれど気持ちだけでじゅうぶんだ。私はこうやって、何とか日々の糧には困らない生活を送っている。きちんと家もあるのだよ」

娘は言って微笑したが、その花のような笑顔に、口にされる男言葉がまるで似合っていなかった。
浅黒い肌に波打つ黒髪をして、首や袖、胸元といった要所要所に異国の文様を刺繍した衣装が、はっきりとした目鼻立ちを惹きたてている。
空のような澄んだ青色も、黄金の如き金色も、彼女は持っていなかったが、それでも紛れもなく美しい容貌をしていることはその場にいる誰もがわかった。むしろ淡い髪、淡い瞳の民族が多いこの国に置いて、その美貌はより人目を引くものかもしれない。

「じゃあ、あんたはもうエテラの民に登録されているのかい?」

婆が尋ねると、娘は竪琴を柔らかそうな布でくるみ、それをさらに革で丁寧に包んだ。

「ああ。代政館のほうで、難民として登録してもらったからね。ご心配は無用だよ、ありがとう」
「そうかい。それにしても、あんたはいい声をしとるね。金の若君が聴いたら、眼の色を変えてお喜びになりそうな竪琴の音でもあった」
「金の若君?」

娘が顔を上げた。
婆は笑顔で頷いた。

「そうさ。知らないのかい? エテラでは有名なんだ。王家の双子、金の髪に金の瞳をした若君と姫君。アシュレイ殿下とアデライール姫。おふたりとも、こよなく楽を愛されるのさ」
「へえ……王家の双子。」

娘は黒い大きな瞳を瞬いて考え込んだが、その可憐な唇が次に喋った言葉は、その年頃の娘ならばおよそ興味のないと思われる内容であった。

「じゃあ、今の帝がお亡くなりになった場合はどちらに継承権があるんだい?」
「え? 継承? ……そりゃあアシュレイ殿下だね。双子の場合は、無条件で王子が優位に立つと国法できまっているんだ」
「ふうん。金の姫君はそれに不満を御持ちじゃないわけ?」
「めっそうもない。金の双子はそりゃあ仲がおよろしく、成人の儀の際には、例えどちらが王位に付こうと自分たちは一方を必ず祝福し、以後は全力を持って支持することをお誓いになった位だ。」
「よくある話だな……しかし、在り得ない話でもある」




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