スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

最愛の



夢のようなひと だから
夢のように 消えるのです


傷が痛む。
眠っている間には遠く感じていたそれが、目覚めた途端、火が付いたような激痛に取って替わった。
もう長くは持たないな、と、苦痛に歯をかたく噛みながら、青年はせめて少しでも楽な姿勢を取ろうと背中を丸めた。
だが冷たい岩の地面は、青年がどう寝転がろうと彼を硬く拒絶する。
何度かじりじりと体制を変えてみてから、やがて諦めて、彼はけっきょく空を見上げた。
仰向けになると、力が抜ける。
だから最後まで、この体制だけは取るまいと、決めていたのに。

──ああ、でも、それでも、俺は頭だけは下げなかった。

媚びることも、屈することも、生きている間にはけして選ばぬと決めていた。その通りになった。
他者に礼節を尽くさなかったという意味ではない。
誰かに媚びることでしか、己の居場所を見いだせないような、そんな人間では居たくないと思っていたということだ。
膝を折ることも、叩頭することも、反吐が出るほど嫌いだった。

──だからだろうか。

青年は息をひとつ、深くついた。
闇空を流れる雲が白い月を気まぐれに見せてくれた。
その、しらじらと、恐ろしいほど輝く光に、遠い面影が重なった。

遠い姫君。
捕らわれの、だが、不屈の。
星の娘。

──謝ることも、結局出来なかった。

夢のような、人だったと、思う。
いや、違う。
彼女が夢なのではなく、自分が夢を見たのだろう。
誰のために生まれてきたわけでもないと思っていた。
今でもそう思っている。

だが、自分は、彼女とまみえて初めて、自分が他者のために存在する喜びを知った。
この手が生み出せるものを知った。
この手が、守れる僅かなものを、見せてもらえた。

百を、知ったわけでも、守れたわけでもないと、解っている。
けれど、その内の、例え一だとしても、己が知れたとしたなら。守れたとしたなら。
自分がこの命を賭すべきものだと思えた。

『人は誰にも必要となどされない。必要と思う権利も、当然無い。命は尊いものだ。命は、誰に利用されるために生まれてくるわけではない!』

火花のように言い切った姫君こそが、自分の、喜びであったのだ。
生まれてきて初めて出会った、そして最後の、喜び。

──姫。

青年は朦朧としはじめて、眼を閉じた。
伏せられたまぶたの上からも感じる強い月の光。

──あなたが幸せであってくれるなら……それでいい。

同じように想ってくれとは、思っていない。
けれど、せめて少しでも、この身を想う瞬間が、貴女にあるように。
そう祈るくらいは、許されるだろうか。

(死にたくないとは……もう言えまい)

強がっているのだ。
わかっている。
姫、あなたは、わかっていただろうか?

涙が、一筋、頬から耳へと伝い流れた。
驚くほど熱い涙だった。


青年は、そこで大きく、息を吸った。



21:59 | ブログ小説 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
わたしは | top | メモ

comments

post a comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://odetojoy.blog81.fc2.com/tb.php/722-9729c2bb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。