FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

夢メモ

川辺を先に立って歩む、少女の背を、物悲しい気分で眺めていた。
まだ若い娘だった。
選ぶ人間は齢や見かけではない、その者の持つ生命力の大きさで決まる。
だから、まさか自分が、彼女のような小娘を選ぶことになるなどとは、無論想像だにしていなかった。
主を見つけることができるかすら危うい時代が到来しているのだから、見つけられた自分は、幸運というべきなのかもしれなかった。
そうできなかった同族たちに比肩すれば。

──ただ一人の人間に支配され、統治を受ける。

我ら犬族は『主』を選び、彼らに魂の保護を求める。
代わり、この身を『主』に捧げ、彼らを何があっても守り抜く。

完全な獣として生まれたわけではない。しかして、人でもないあやふやな存在。
かつては時の帝を、将軍を『主』と選び、彼らに仕えた犬族たちもあったが、過去の話だ。
時代が進み、滅びの一途を辿るばかりの我々は、生き残るためにはどんな人間でも選ぶ必要がある。
選ばなければ、残された道は死しかないのだから。

おれは、死にたくない。生きたいのだ。

顔面に吹きつけてくる川風に、眼を細めながら蒼路は首を振った。
少女は土手の途中で立ち止まり、何か考え込むように、夕日に輝く水面を見つめていた。
きつくひそめられた眉に、きゅっと引き締まった口元がいかにも頑固そうで、一筋縄ではいかない娘だとわかる。
かつて蒼路の仲間だった八宵も、『主』として選んだのは若い娘だった。
だが彼女は『主』を守り切れずに死なせ、そのことを激しく嘆き悲しみ、『主』の後を追うようにして自ら命を絶ってしまった。
人に情を移した愚かさの果てに、と蔑視されて、生き残った犬族のあいだでは、今や八宵の存在は名折れであった。

──八宵。

蒼路は草を踏みしめてゆっくりと立ち上がり、少女に向かって歩き始めた。
前脚の鋭い爪が草花を潰していくたび、鼻に青い匂いがたちこめる。

──八宵。おれも、お前のようになる時が来るのだろうか……

人に生かされ、人と共に死を選ぶような日が来るのだろうか。
生きるため『主』を選んだというのに、いつのまにかそのことを忘れてしまう時が、やってくるのだろうか。
八宵、おまえは、どうして。

どうして自ら死を選んだ?

「そなた」

蒼路が追いつくと、娘が尋ねた。
蒼路は答えた。
風が、体毛をここちよく撫ぜてゆく。

「なにか。」
「名はなんという?」
「──蒼路、と」

蒼路がこの娘を見出したのは、昨夜だった。
星のように、光のように夜を駆ける彼女が突然に、蒼路の視界に飛び込んできたのだった。
一目でわかった。
この者だ、と思えた。この少女を自分は選ぶのだ、と。

「……蒼路。」

はじめてその御前に立った時、少女は驚きすらしなかった。
玉のような汗をとめどなく流しながら、息を切らして、蒼路を見つめた。
真っ暗な闇の中で。
月すら浮かばぬ、新月の夜に。
ただ娘の魂と、蒼路の魂だけが、白くまばゆく輝いていた。

「良い名だ。わたしは、紅姫という、蒼路。」

そして少女はにこりと笑った。
背を屈め、蒼路と目線を同じくして、蒼路の体に片一方の腕を巻きつけるようにして地に膝をついた。
紅姫の体からはふわりと嗅ぎ慣れない、人の作る香の匂いがした。
身なりからしても、二重の着物をきっちりと着込んでいる。良家の娘なのであろうと蒼路は思ったが、それはどうでもいいことだった。

大切な事は、自分が紅姫を選んだということ、そして今、紅姫がそれを受け入れてくれたということだった。
隣に主がいる。
蒼路が守るべき御方、また、蒼路を守りながらにして、殺すかもしれない御方が。




09:17 | 未分類 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
声が | top | げーじゅつか

comments

post a comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://odetojoy.blog81.fc2.com/tb.php/730-bb04d5d0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。