スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑


悲しみにむせぶその人を見て、僕は恋をした。
涙に濡れた横顔から、悲痛に丸められた背中から、眼が反らせなかった。
女性を、美しいと思ったのははじめてだったし、ましてや泣いている人に魅入られてしまうなんて初めてだった。
でも、とにかく、恋をしてしまったのだ。

けれどそうして発生した恋は、同情でないと信じてもらうのがとても難しい。
まして悲しみを打破する力を持つ笑顔を、彼女はほとんど見せてはくれなかったから。

僕は難儀していた。
君与さんに惹かれながらも、どうしていいかわからずに、ただ時間ばかりが過ぎてゆく。




『金曜日の雨音』




また雨か。
キッチンの窓に打ち付ける雨粒を見つめながら、三井先輩が呟いた。
僕はその言葉ではじめて雨が降り出していることを知り、やはり顔を上げて窓を見つめた。
ぐずぐずと泣き出しそうな灰色が、空を塗りつぶしている。
アルバイトを始めて早一カ月。三井先輩が言うように、ちかごろの記憶は確かに雨ばかりだ。

「梅雨ですかね」
「まだ早いだろ。春雨じゃないのかな」

はるさめ。
三井先輩は長いまつげのふちどる視線を、窓から手元に移し替えた。
慣れた手つきでラズベリーのタルトフィリングを混ぜている。
タルトの作り方を教わっているところだった僕は、慌ててそちらに意識を戻す。
春雨。当たり前の言葉なのに、ひどく美しい感じがした。
三井先輩は、よくそういう瞬間を生み出す人だ。
とてもルーズな振りをしていながら、本質の端正さが、隠し切れていないような。

「ラズベリーは期間限定で7月末までの商品。オーナーが冷凍は使いたくないっていう人だから、基本は生のラズベリーか、前もって仕込んであるコンポートを裏ごしして使う。種が多いから大変だけど、一番人気の商品だから、よく見といて。」
















08:43 | 未分類 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
ちかごろ | top | ピアス

comments

post a comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://odetojoy.blog81.fc2.com/tb.php/734-a7ee31c8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。