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Ristorante Azzuro


つづきを書いて見る。
ファンタジー感加速中。



「行ってきまーす」

ひとり暮らしのあたしが、バイト出勤前にそう声をかけたのは、人じゃなくて写真。
優しげな若い女性と、艶やかな黒猫と。
つまり、死んだあたしの母とヤコ。
返事なんかあるわけもない。期待してもない。

あたしは笑顔全開でドアを開いた。

「行ってくるね! あー、今日もいー天気!」

季節は初秋。
まだ残暑の厳しい、それでもどこか日差しのやわらかくなってきたある日だった。


**Ristorante Azzuro**


ん?
……なんか、おかしい?

出勤。
蒼のレストランのロッカールーム、狭くて薄暗いその部屋で、制服に着替えはじめてすぐ、あたしは何か違和感をかんじた。
なんか、ちらちら、背中に刺さるものがあるのだ。
視線、というか。
人の気配のような。

けど。けどけどけど。

「誰もいないじゃん!」

自分で自分に突っ込んでみた。
そう、誰もいない。いるわけない。
水曜日の15時、ドルチェの仕込みを手伝える女子はあたしだけなのだから。

「気のせいだ。気のせい気のせい」

あたしは呪文のように繰り返しながらネクタイを締めて、ロッカー内のフックから帽子を取り上げた。
ばんと音をたててロッカーを閉め、振り返る。
やはり誰もいない。だが、気配はまだ続いていた。
しかもなんだか今は、小さい物音のようなものまで聴こえている。
それは鳥が羽ばたく音に似ていた。ぱたぱたと、翼がこすれる音。

窓の外に鳥がいるんだろう。
あたしは再び自分に言い聞かせて、帽子をかぶった。
姿見で身なりを確認してから、ロッカールームの出口へ向かい、ドアノブに手をかけた。
途端に……

ドン! と、何かがあたしの顔めがけてぶつかってきたのだった。
同時に鼻腔に流れ込む生臭い匂い。
あたしはその匂いを熟知していた。
外科病院で看護師として働いていたころ、毎日触れていたもの。

つまり──血。

「なっ……」

あたしは立ちつくした。
全身にぞっと、鳥肌が広がってゆくのがわかった。
眼の前に落ちている物が信じられなかった。
けれど、辺りに立ち込める、むっとするほどのこの血の匂いは紛れもなく本物。
着替えたばかりの清潔な制服にも、一面べったりと血糊が飛んでいる。

そして。
床は。ロッカールームの外は。
巨大な血だまりが広がっている。

その中央に沈んでいるのは、首のないカラス。

あたしは片手で口を覆った。
悲鳴こそあげなかったが、眩暈がした。
なんで。ただ、その言葉だけが頭を占拠してぐるぐると視界が回った。

あの人を、呼ばないと。
わかっているのに、動けない。
そう、そこであたしは気が付いた。自分が微動だにもできないことに。

驚愕のためではない。
何か強力な外部からの圧力によって、あたしの自由は奪われていた。

(……なに、これ……?)

心当たりはあった。
だがそれは推測にすぎず、あいにくあたしはその分野は専門ではない。
つまり、この状態から逃げる方法など分かる筈もないのだ。

まずいことになった。
背筋を、氷で撫でられたような、ぞっとする恐怖が這いあがってくる。
まずい。これは、かなりやばい。
負けてはいけない。

飲まれてはいけない、『彼ら』に。

「──深沢?」

ぱりん、と、何かがひび割れる音がした。
呼吸が楽になる。全身を、縛っていた力が、ほんの少しだけゆるんだ。

あたしは顔を上げた。そして叫んだ。

「……店長!」

待ち人来たりだ。
いささか登場が遅すぎる感もあるが、許してやろう。

***

店長は紺色の眼をしている。
イタリア人の血が混じっているせいらしい。
そしてその眼があたしを捕らえた瞬間、あたしに施されていた透明な縛めは、あっけなく砕け散った(のが感じられた)。

手足から重圧が取り除かれ、あたしはふらりとその場にしゃがみこんだ。
店長が小走りに駆けてくる。
そしてあたしのすぐ傍までやってくると、血だまりの床に膝をついて、それから──

「──このど阿呆が!」

あたしの頭を思いっきり叩いた。
な、な、な、
なんだってー!?

「……なんであたしが怒られんのよ!!」
「お前はなんてもんを連れて来るんだ、俺の店に!」
「はあ?」









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